インドに行かないと旅人ではない。
『インドに行かないと旅人ではない。』
私はなんとなく一人でそう思っている。
初めての外国はオーストラリア。
看護師の研修で訪れた。
もう10年くらい前になる。
ゴールドコーストの空気は外国なんてテレビの中でしかみたことがなかった私の心にべったりとはりついた。
研修仲間とカフェに行ったときにその人はいた。
髪はボサボサでアジアン雑貨に売っているようなもっさりとした服をその人は着ていたた。
日本人だと思わなかった。
絶対に話しかけちゃいないヤバいやつだ。
それが第一印象。
その人はこっちに気がつくと『日本人?』と聞いてきた。
もう2年近く旅をしているらしく最近の日本のニュースや芸能について聞いてきた。
スマホはまだ普及していない。
旅人が海外にインターネットを持ち歩くのは普通ではなかった。
その人はあと2~3日後にはオーストラリアを出て、シンガポールからアジアを西に抜けてインドで旅を終えるという。
バックパッカーという言葉をこの時初めて知った。
インドから始まって世界一周をしてインドで終わる旅だそうだ。
この旅が初めての海外らしい。
びっくり。
なぜインドから旅を始めたのか聞くと、『インドが呼んでいたから。インドに行かないと旅人じゃない。』と答えた。
なんで旅なんかしているのかも聞いたら、『それもインドが呼んでいたから。』と答えた。
ぽかんとしてしまった。
世界一周。
看護の研修に行ったのに心に唯一残ったのはこの言葉だった。
それからは世界一周について調べまくった。
本、コミュニティ、旅行会社。
どのくらいの期間でいけるのか?
いくらかかるのか?
それから約3年、看護師を辞めてとうとう世界一周に行くことにした。
オーストラリアから出発してアジアを北へ、中東は不安だったのでバンコクからヨーロッパ。
ヨーロッパは物価が高くて長くいられずとりあえずアメリカへ。
英語が話せないことをネックに感じてそこからフィリピンで語学留学。
そこで世界一周の心はポキリと折れてしまった。
約1年3ヶ月ふらふらしたが、世界一周なんて到底言えないブツブツな旅。
もちろんインドには行っていない。
それでも海外を回って知見が広がった自己満に浸り、また日本で看護師として落ち着いてしまう。
けれど何かもやもやしていた。
魚の骨がノドに刺さっているような嫌な感じ。
『インドに行かないと旅人ではない。』
そうだよね。